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最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)1360号 判決 1964年5月23日

上告人

大成商事株式会社

右代表者取締役

野上格一

右訴訟代理人弁護士

小泉喜平

被上告人

日商化学工業株式会社

右代表取締役

西田常一

被上告人

西田常一

右両名訴訟代理人弁護士

尾崎陞

鍛治利秀

中村巌

主文

原判決を破棄し、本件を札幌高等裁判所へ差し戻す。

理由

上告代理人小泉喜平の上告理由第一点について。

原判決は、被上告会社の代表者である被上告人西田常一は、本件手形取得の衝に直接関与していた社員の進藤栄二、桑野一男両名の報告を信じ本件手形は融通手形ではないと確信して、振出人である上告会社に対し手形金の支払を求める訴訟を提起したのであるから同被上告人には故意がなく、またそのように信ずるにつき相当の理由があつたから同被上告人には過失もないと判断して、上告会社の損害賠償の請求を棄却したものであること明らかである。

しかしながら、近代企業においては、使用者は多くの被用者を履行補助者として使用し、その能力あるいは労働を利用して利益を獲得しているのであるから、その反面、被用者の事業上の違法行為につき一定の条件の下に使用者は外部に対し責任を負わなければならないというのが民法七一五条の趣旨である。この法理は行為者の善意・悪意、過失の有無等の内心の状態によつて法律効果が左右される場合にも類推さるべきであつて、使用者がいかに主観的に善意・無過失であつても、被用者に悪意ないし過失があつた場合には、民法七一五条一項但書にあたるような場合を除き、使用者に悪意ないし過失があるものと評価されるべきである。されば被用者である前記両名の故意過失を論ずることなく右両名の報告を信じた被上告人西田常一に主観的に故意・過失なしとの一事により、たやすく同被上告人および被上告会社の不法行為の成立を否定した原判決には、右法理を誤解した違法があるといわなければならない。論旨は結局理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、他の上告理由についての判断を省略し、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

上告代理人小泉喜平の上告理由

第一点 原判決は民事訴訟法第三百九十五条第一項第六号に反した違法がある。

原判決の理由に依れば「被控訴人主張の為替手形を控訴会社において取得するに際し、直接これに関与したのは社員である進藤栄二および桑野一男であつて、代表取締役である控訴人西田常一は直接その衝に当つていなかつたので、」その衝に当つた進藤栄二および桑野一男が、「いわゆる融通手形として被控訴会社の引受交付を受けたものではなく、控訴会社において手形金請求権を有するものであると報告したので(中略)控訴会社に対する融通手形ではないと確信して(中略)右手形金請求の訴を提起するに至つたものである」というのであるが、この理由は原判決を取消し、上告人の請求を棄却する理由にはならない。何故かというと、被上告人西田常一は、被上告会社の代表取締役であつてまは専務取締役である(西田常一の本人尋問に対する供述)。

而して会社と取締役の関係は委任関係であつて(商法第二百五十四条第三項)取締役は善良なる管理者の注意を以て委任事務を処理する義務を負つているのである(民法第六百四十四条)。

また被上告会社は資本金僅かに金三百万円であつて昭和二十三年(終戦後)に設立した会社である(別紙登記簿謄本)この会社の代表取締役であつて専務取締役である被上告人西田常一が、被上告会社の資本金の約三分の一に該当する金額である金九十五万四千六百円の手形が融通手形であることをその立場上(代表取締役であつて専務取締役である立場上)何人よりも一番よく当然知つて居なければならないのにこれを知らなかつたということは、これ自体が重大なる過失である、上告人に対する手形請求の訴はこの重大なる過失に因るのである、被上告人西田常一の行為は被上告会社の代理人として、また業務執行者としての善良なる管理者としての注意義務を怠つた為である。

然るに原判決は、被上告人西田常一が上告人に対して手形請求の訴を提起するに至つたのは、社員の進藤栄二および桑野一男が

「いわゆる融通手形として控訴会社の引受交付を受けたものではなく、控訴会社においてその手形請求権を有するものであると報告したので(中略)控訴会社に対する融通手形ではないと確信して(中略)右手形金請求の訴を提起するに至つたものである」

と判示して、原判決を取消し、上告人の請求を棄却したのである。

原判決はその理由に於て齟齬あるものといわなければならない。<以下省略>

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